日本テレビのグループ会社として、日本テレビアート(以下、日テレアート)ではテレビ番組や映画などで使用する美術セットのデザインや照明ディレクション、また印刷物等の企画・デザイン等を行っています。
そして、テレビ関連の業務で培った技術やノウハウを積極的に外部企業へと提供するべく、日テレアートでは2020年にビジネスプロデュース室が発足。現在は空間デザインやWeb、印刷物、またイベントに至るまで、様々な企業のデザインをプロデュースしています。
今回はそんな日テレアートの原点とも言える、テレビ番組の美術セットや照明演出の裏側に迫るべく、日本テレビ系列で毎年生放送されている大型音楽特別番組『ベストアーティスト 2022』のデザインおよび照明に携わったチームにインタビュー。
美術統括プロデュースを務めた大川、セットデザインを担当した波多野、浅田、そして照明を担当した谷田部、藤山にテレビ美術や照明がどう具現化され、本番を迎えるのかについて語ってもらいました。
まずは生放送の音楽番組における、美術セットや照明の大まかな仕事の流れを教えてください。
大川:本番の2〜3ヶ月前に打ち合わせを行い、プロデューサーや演出陣からどういった番組にしたいのか方向性が提示されます。
その方向性に対してデザイナーや照明担当がアイデアを出していくのですが、実際のセットを準備するため各社に発注するなどの業務もあり、本番の1ヶ月前には図面を完成させ、本番に向けて大道具、電飾など様々な美術協力会社の現場スタッフ、トータル70名ほどのメンバーと一緒に番組をつくっていきます。
浅田:当然ながらデザイナーとして、テレビに映るスタジオをいかに演出の要望に沿ったデザインに落とし込むかがメインの作業となるのですが、それ以外にも演者や楽器などの動線確保やカメラワークを考えたスペースづくりなど、各所の意見を集約しながらスタジオ全体の機能面をデザインすることも大切な役割になります。
谷田部:照明の配置に関しては美術の図面にも影響してくる部分のため、美術デザイナーと調整をしながら進めていきます。そしてアーティストごとにどういった照明の演出をするかのプランを決めていくのですが、出演アーティストが本番ぎりぎりまで決まらないということもあるため、本番直前まで準備をし続けてます。
また本番当日も、歌が終わった後にMCに場面転換する際に照明を切り替える必要があり、そうした切り替えが特に神経を使う部分です。生放送だからこそ、私たちが失敗してしまうとMCが映る画面が真っ暗のまま放送されてしまうため、少しのミスもできない仕事です。
テレビに映るスタジオのセットデザインだからこその難しさは何かありますか?
波多野:カメラのアングルによってテレビ画面に映るセットの印象は大きく変わってきてしまうというのが、テレビ美術だからこその難しさかもしれません。そのため、3Dデザインのアプリケーションを用いて様々なカメラ視点でどう見えるかを確認しながら、セットの構成や高さ、角度を何度も検証を重ねて進めていきます。
近年はグループ出演が増えており、パフォーマンスエリアがこの数年で最大規模に広くなっています。スタジオのキャパシティに対して、パフォーマンススペースを確保しながら、いかに奥行きのあるセットにしていくかを考えていきます。そして照明部と相談しながら、デザインプランを現実的な方向へ具体化させていきます
浅田:様々な条件の中で、いかにクオリティの高いデザインに仕上げていくかも考えています。
たとえば今回私が担当したセットの場合、シンプルでありながらも、フロアと背景に用いたビジョン(ディスプレイ)の数、またビジョンに流す映像によってセットの印象が変わってきます。そのため、ビジョンの配置は数センチ単位で検証を何十パターンか繰り返し、細かくデザインプランを行いました。個人的にはこうしたシンプルながらもダイナミックなデザインのセットにチャレンジしてみたかったため、本番がより楽しみな案件でもありました。
照明演出に関しては、アーティストごとにプランを決めていくとのことですが、具体的にどのように進めていくものなのか教えてください。
藤山:曲ごとの担当ディレクターとは、照明の色味や背景の映像の中身について、また盛り上がるポイントではこういった見せ方をしようといったことを打ち合わせで話し合っていきます。 なお、音楽番組の場合ですと、カメラマンがどの位置で、どういったサイズでどのような画を撮影するか指示してあるカット割り資料も用意されています。
そして大枠の見せ方が決まれば、あとは1曲ごとに照明のプランニングを行っていきます。何度も曲を聴きながら、ここではこういった見せ方をしようという照明パターンを決めていき、その曲にあったプランニングを行っていくのですが、1曲でも何十もの照明パターンがあり、60曲の番組であれば何百パターンものプランニングを行う必要があります。
そのため、いかに照明パターンを被らないようにするか、いかにたくさんの変化をつけていくかが照明演出のプランニングの難しい部分。夏メドレーやクリスマスメドレーといった同じテーマの音楽が続く場合だと、どうしても照明パターンは似てきてしまいますし被りも出てきてしまうのですが、そうした中でもどう変化をつくっていくかが求められます。
谷田部:アーティストの顔に当てるライトひとつ取っても、アイドルに対しては明るく可愛く見えるようにとか、クールなバンドであれば少し影をつくってカッコよく見えるようになど、工夫が必要です。 さらにビームライトもほわっとしたビームやはっきりしたビームなどの光の広がり具合や、カラーで印象が変わってくるため、様々なバリエーションから1曲ずつ最適な照明プランニングを行っていきます。
しかし、こうしたバリエーションはどこに照明を設置するかの図面の段階でおおよそ決まってしまうため、ライト配置を間違えてしまうとあとからこういう見せ方をしたいと思っても難しいんですね。そこでセットデザインに合わせて最適な照明を配置するということも重要になります。
その他、テレビの照明だからこその難しさは何かありますか?
谷田部:ライブとは違い、テレビの画面に写ったものが視聴者の方々が見る景色になります。たとえばライブであればステージの左右は真っ暗だったりしますが、テレビの場合は正面からだけでなく、右からも左からも撮影します。
そのため、ぱっと見は華やかなのに、寄りで撮影すると背景が真っ暗に見えてしまうといったことが起こらないよう、どのカメラアングルからも美しく見えているかを考えなければなりません。
そこでデザイナーが描いた3Dのセットデザインの設計図に照明を配置し、セットと照明がどのようにカメラに映るか、どの場所でどの高さに照明を設置するとどう見えるか、といったことを細かくシミュレーションを行い、最終的な照明配置を決めていきます。
あらためて生放送の音楽番組のデザインや照明というのは、みなさんにとってどのような仕事なのでしょうか? それぞれお聞かせください。
大川:私は美術統括プロデューサーとして今回のスタジオ美術全般に携わっており、デザイナーや多くの協力会社と連携して適切なコストコントロールのもと美術セットの提案から発注、また設営スケジュール、安全管理などを担当しましたが、生放送だからこそ気にしなければならないことはたくさんあります。
美術統括プロデューサー業務で大切なことのひとつはリスクマネジメントです。常に先のことを考えて行動するのが私の仕事だと思っています。
波多野:不思議な感覚を得られる現場だと感じていまして。関わるスタッフが多く、時間の制約や機能面、安全面など様々な条件から奮い立たせてセットを生み出す責任はとても大きいです。夢に出てくるくらい心配事がずっと付きまとってくることがありますが、ある意味私にとってのアンテナになっています。
形になったものがその後どのように番組に寄り添うものになっているのかを見届けるまで常に気を張って集中力を保ち続けるのですが、生放送が終わり撤収してスタジオが真っ新になったときが、ようやくホッとできる瞬間。そして終わってしまうとなぜかこれまでの辛かったことを忘れてしまい、また次の現場を求めてしまうような中毒性のある仕事だなと感じています。
浅田:私はすべてが完成したセットを見るときが、この仕事をしていて一番心が動かされる瞬間だと感じています。自らデザインしたセットの中に自分がいるというのが不思議ですし、照明や電飾、カメラに音声など、様々なプロフェッショナルの方々によって生み出された空間にいつも圧倒されています。
デザインしたセットがいろいろな人たちによって育てられ、成長して戻ってくるような感覚を覚える仕事だと感じています。
谷田部:生放送は緊張の連続でそのリハーサルでは常に時間に追われながらも最大限良い映像を作るべく大きなプレッシャーと戦い続けなければなりませんが、無事に終わったときには大きな達成感を得られる仕事。
また、私たちの裏にはセットを組む人、照明を組む人など、たくさんのスタッフとゼロから組み立てていくため、そうしたチームで何かをやり遂げるということも達成感を得られる理由のひとつでもあります。そして良い番組をつくっていくために共に高め合い、お互いを労い、感謝し合える環境だと感じています。
藤山:生放送の音楽番組であるため、曲と曲のつながりやMCへの場面転換などは台本があるものの、照明の切り替えがしっかりと行えるかは毎回ヒヤヒヤしています。そのため、最終的に生放送、そして撤収までを無事に終えられたときは本当に大きな達成感が得られます。
また、音楽番組はテレビ照明の仕事の中でも花形の仕事の一つだと思っていまして、一流のアーティストがたくさん出演されますし、照明演出の影響力も大きく、とてもやりがいを感じられる仕事です。
最後に、みなさんでチャレンジしたいことがあれば教えてください。
大川:過去に担当した歌番組のスタジオセットを出演していたアーティストが気に入ってくださり、その方のライブのセットに携わることができました。 今後もそういったテレビ以外の仕事にもどんどんチャレンジしていければと思っています。
波多野:私たちの会社は美術と照明の距離が近いので、デザインする上で気軽に相談できる環境があります。より良い空間デザインをつくり出すためにアイデアを出し合うことも多いので、テレビだけでなく様々な分野でこの強みを発揮していきたいですね。
谷田部:ライブの仕事はぜひやってみたいです。また、このチームであればテレビで培ってきた技術やスピードで、いろいろなことにも対応できるなと思っていて。Webでのライブ配信など、いろいろなことにぜひ挑戦していきたいです。
浅田:色々な番組を経験してきた私たちだからこそ、アーティストの世界観を存分に引き出せるようなデザインや照明を実現できたらいいなと思います。ぜひ実現できたら嬉しいです。
日テレアートではセットデザインはもちろん、照明デザインを含めたトータル的な空間デザインのご提案が可能です。 お気軽にご相談ください。