社員インタビュー
“プラスアルファの提案力”でコストパフォーマンスを最大化┃ 美術プロデューサー・大川明子
“プラスアルファの提案力”でコストパフォーマンスを最大化┃ 美術プロデューサー・大川明子

テレビ番組の企画や収録においては、収録の陣頭指揮をとるディレクターと、番組全体の予算や演出を管理するプロデューサーの両輪によって現場は成り立っています。番組ディレクターの仕事といえば企画やロケの手配などなんとなく想像ができますが、プロデューサーともなると業務範囲が分からない人も多いのでは。

 そこで、今回は日テレアートで美術プロデューサーとして活躍中の大川明子に業務内容やその魅力について話を聞きました。セットの建込みの進捗管理や予算交渉など多岐にわたる業務ノウハウは、テレビ番組制作のみならずイベントや配信番組の制作にも活用できるといいます。

予算交渉、進捗管理、そして“安全”を守ることが仕事

  • 美術プロデューサーとはどのような仕事なのでしょうか?

大川:テレビ美術全般に対する最終的な責任・判断を請け負う役職であり、クライアントからの要望に対して最大限のコストパフォーマンスで美術コンテンツを提供する職務です。具体的には各案件の中でコスト管理や施工・撤収時の工程管理に加えて、スタッフや出演者、お客様の安全管理が主たる業務になります。

 テレビの現場は社内外含めて多くのスタッフが関わりますし、『THE MUSIC DAY』のような大規模な音楽番組などでは更に人数が増えます。規模が大きくなって人数が増えるほど連絡事項の伝達や進捗状況の把握が難しくなっていくため、美術プロデューサーのように現場を俯瞰で見つつ調整する役目が欠かせません。

 また、現場スタッフはみんな作業をキリのいいところまで進めようとしがちですので、気がつけば何時間も仕事を続けていることがあります。そうならないように、きちんと食事や休憩を取れているかなどについても、我々が目を配るようにしていますね。

  • 実際に現場にも立ち会って調整をするんですね。

大川:設営が予定通り完了するために進捗管理は特に重要です。何時に大道具さんが入って、その後何時から電飾さんが入って……というふうに、セットの設営には細かくスケジュールが決まっています。最初に美術から設営がはじまるのですが、出だしが遅れてしまうと最終的にすべてのスケジュールが遅れてしまいますから。

 他にも図面上では余裕があったのに、実際にセットを建ててみると配線が邪魔で導線が確保できないなど現場でトラブルが発生することが少なからずあります。その場で対応策を講じるためにも設営の際も必ず立ち会っていますね。美術プロデューサーは企画が立ち上がる段階から関わり始め、番組セットの建込み、収録後の撤収まですべての現場に立ち会うので、実は番組ディレクターや技術スタッフよりも長い時間を現場で過ごす職種と言えるかもしれません。

「長年いても、まだまだ未知」。テレビの世界の魅力とは

  • 美術プロデューサーはどのような形でひとつの案件に関わるのでしょうか。

大川:去年立ち上がったテレビ番組『カズレーザーと学ぶ。』を例に挙げると、放送開始3ヶ月ぐらい前から各所との打ち合わせが始まり、何度か打ち合わせを繰り返して1ヶ月半ぐらい前にセットの構成が確定。その後図面やパースをデザイナーが制作してセットを発注するという流れでした。美術プロデューサーの役割としては、セットの制作に必要な予算について番組プロデューサーと折衝をおこないつつ、番組の見せ方に関わる部分やコーナーでおこなうゲームの企画など、演出に関することは番組ディレクターと打ち合わせます。

 番組内でセットを使ったゲームをする際は、番組ディレクターと一緒にゲームの内容を考えることもありますね。たとえば以前担当した案件で、大型の装置を作って水風船を吊るして動かし、出演者に割ってもらうゲームがありました。この際、万が一事故が発生しないように吊るす水風船の総重量などを計算しつつ、安全対策を踏まえたうえでエンターテイメントとして成立するかを考えるのも私の仕事のひとつです。

 

▲大川が担当した『カズレーザーと学ぶ。』の番組セット

様々なスタッフと調整が必要で大変な仕事ではありますが、自分が知らないことに毎日触れられるのがこの仕事ならではの魅力だと思います。さきほどのゲームを考えるときも、水風船のなかに何色の水を入れたら面白いだろう、たくさんの水風船が吊られている状態を美しく映すにはどうしたらいいだろうとか、ずっと悩んでいたんですよ。普通に生活していたらそんなこと考える機会ってないですよね(笑)。毎年色々なことをやらせてもらっていますが、テレビの世界は良い意味でまだまだ未知の世界だなと思います。

  • 立ち上げから完了までの流れの間で、ご自身が活躍する瞬間はどこだと思いますか?

大川:最初に活躍する場面は予算交渉かなと思います。近年はコンプライアンス意識が高まり、収録時の安全確保の重要性も増しつつあります。やりたい企画があっても安全性を確保するために費用がかかり、実現が難しいケースもあるんです。とはいえ常に“万が一”を想定して対策することは絶対に必要ですし、そのための費用を削減することはできません。安全管理を前提に、コンテンツとしての面白さも担保する。そのためには制作側にしっかりと説明したうえで、予算交渉に反映するのが重要な役目のひとつです。

 あとは、打ち合わせでうまく話を引き出すことも大切です。そのためにあらかじめ資料を読み込むのは当然ですが、打ち合わせの際にプレゼンできるものを用意しておくようにしています。たとえば歌番組なら電飾さんから新しい製品を教えてもらっておいて「今回はこの製品を使って、こういう演出や見せ方もできますよ」といった具合ですね。

特番は美術プロデューサーの腕の見せどころ

美術プロデューサーという仕事は番組制作において非常に責任が重い役目ということがよく伝わりました。大川がそこに至るまでに、どのようなキャリアステップを経てきたのかも聞きました。

  • 美術プロデューサーになるまでの一般的な流れとは、どのようなものでしょうか?

大川:日テレアートの場合、美術プロデューサーになるためのステップとしては、まず先輩のもとでアシスタントプロデューサーとして協力会社への発注方法などを勉強してもらいつつ、番組収録がうまく進むように進行業務を通じてテレビ美術全体の動きが把握できるようになってもらいます。それができるようになれば、今までの仕事にプラスしてコスト管理や安全管理についても学んでもらい、自分で考えて行動できるようになれば美術プロデューサーとして1本立ちになります。いずれにせよ、まずは進行管理をできるようになることが最初の一歩です。

 私の場合はもともと学生時代に店舗の飾り付けやウィンドウディスプレイを学んでいたのですが、卒業後は他局で美術進行業務(セットの発注や制作、建込みなどがスケジュール通り進行しているか管理する業務)を担当し、テレビ業界の美術進行や予算管理の仕事を覚えました。そこで一緒に仕事をしていた弊社のデザイナーに誘われ、日テレアートには2006年から在籍しています。これまでの業務経験がまさに美術プロデューサーのそれと同じだということもあり、今の役目を任せてもらえました。
 前の会社も楽しかったのですが、日テレアートは美術面・技術面ともに専門のスタッフが在籍していて、幅広い分野ができることもあって非常に充実した毎日を送れています。

▲『THE MUSIC DAY』のパースと全体図面。全体の導線やセットの段取りも含め、緻密な計算が求められる
  • そんな日テレアートならではの仕事というと、どのようなものがあるでしょうか。

大川:『THE MUSIC DAY』や『24時間テレビ』のように局を挙げて取り組む特番はそのひとつです。通常の番組なら美術関連のスタッフをすべて合わせても50人以内となることが多いですが、幕張メッセや武道館を借りて収録する特番では大道具さんだけで50人を超えることも。関わる時間が長いだけでなくスタッフの数も想像を絶するため、美術プロデューサーの腕の見せ所といえます。
 特に『24時間テレビ』はたくさんの方が会場にいらっしゃるので、通路の確保やバリアフリー対策を考えるなど、他のスタッフが気づきにくい部分にも我々が目を配って置く必要があります。毎年の恒例行事とはいえ、終わった後は達成感というよりも「今年も無事終わった……」と安堵する気持ちのほうが強いかもしれませんね(笑)。

番組制作のノウハウがあるからこそプラスアルファの提案ができる

番組セットの制作はもちろん、イベントなど大規模なプロジェクトになればなるほど、その重要性が増すのが美術プロデューサーという仕事です。具体的にはどのようなクライアント、案件でその強みが役立つのでしょうか。

  • 日テレ系列以外のお仕事も担当されているとのことですが、どのようなクライアントを担当していますか。

大川:2022年までは滝澤とおなじビジネスプロデュース室に所属していたこともあって、そのあいだに配信番組やイベントに合わせたホテルの装飾など、テレビ以外の案件を手がけさせてもらいました。実は今日はこの後もHuluの番組で、初めてお会いするスタッフと一緒にロケハンに向かう予定です。

近年はNetflixやHuluなど配信番組からの依頼だけでなく、様々な業種で動画配信の需要が高まっているように感じています。実際に手がけた事例を挙げると、コロナ禍で学会の開催が難しくなったこともあって、代わりにゲストを呼んで病院関係者が議論する動画や製薬会社の新薬説明会など、医療関係の配信も担当しました。

 現在は美術プロデュース部の仕事量が増え、人手が足りなくなったこともあって美術プロデュース部に戻りましたが、テレビ以外の仕事を体験できたのは非常に勉強になりましたし、我々のノウハウは様々な業界から求められていることを実感しました。新たな仕事を担当していくなかで「日テレアートさんがいると分からないことも教えてくれたり提案してくれるし、次もご一緒したい」と言っていただいたことも。この言葉を噛み締めて、今後も仕事に取り組みたいです。

  • 美術プロデューサーが案件に就くメリットはなんだと思いますか?

大川:番組制作の他、大掛かりなイベントを運営する案件など、たくさんのスタッフや系列会社が関わる場合は我々のノウハウを活かして折衝や進行管理をおこなうことが可能です。多くの人と関わりながらたしかなクオリティで納期通りに制作を進めるのは、プロデューサーの最たる役目だと思います。

 プロデューサー職というと予算を確保する仕事というイメージがあるので、クライアントからすると身構えてしまう側面もあるかもしれません。ですが、メイクやスタイリストに小道具から音楽ステージの設営・制作会社まで、協力企業や系列企業とのコネクションを一番持っているのが美術プロデューサーです。質を落とさずにコストカットの方法を提案できることもあれば、他の会社ではできないプラスアルファの提案もできるのが私たちの武器。今後は配信番組など番組制作の他、テレビ業界以外のクライアントに対しても日テレアートのノウハウを活かしたご提案ができればと考えています。


日テレアートでは番組のセットデザインだけでなく、イベントや空間演出など総合的なクリエイティブ制作がご提案可能です。 お気軽にご相談ください。

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