社員インタビュー
クリエイティブの力で視聴者の感情を動かすのが仕事 ┃ セットデザイナー・熊崎真知子
クリエイティブの力で視聴者の感情を動かすのが仕事 ┃ セットデザイナー・熊崎真知子

日テレアートの根幹となる業務が、テレビ番組のセット製作です。出演者の動きや表情を引き立て、番組の雰囲気やテーマを視覚で表現するセットは、いわば番組の土台であり縁の下の力持ちというべき存在。いや、放送中ずっとテレビ画面のなかに映っているセットは、出演者の皆さんに負けないぐらいの働き者といえるでしょう。少なくとも私たち日テレアートは、そんな気持ちで仕事に取り組んでいます。

 番組に見合ったデザインを考え続けているセットデザイナーたちを束ねているのが、美術デザイン部セットデザイナーの熊崎真知子。バラエティ、情報番組、スポーツ中継など様々な番組のセットデザインを担当してきた熊崎に、セットデザイナーの仕事や魅力、日テレアートならではの強みについて聞きました。熊崎が担当してきたセットデザインの写真とともにご覧ください。

セットデザインの仕事は演出の意向を汲み取る“クライアントワーク”

  • まずはセットデザイナーのお仕事内容と、仕事の流れを教えてください。

熊崎:テレビ番組やイベントの舞台となるセットのデザインを担当するのが、セットデザイナーの仕事です。テレビのセットと言えば報道番組や歌番組などのスタジオにあるセットをイメージするかもしれませんが、それだけではありません。屋外ロケやスタジオ以外でロケ収録をする際に、装飾や製作物が必要であればデザインを含めて用意しますし、バラエティ番組のゲームに使う装置の考案や製作もおこないます。

テレビ番組の新規立ち上げを例に仕事の流れを説明すると、収録の2〜3ヶ月前に番組企画書とともにご依頼いただくケースが多いです。そこから番組の演出担当などの要望をヒアリングしつつ、コンセプトに応じたデザインをブレインストーミングし、イメージイラストを描きます。その後も関係者と複数回の打ち合わせを行いながら、パース図などを提出して完成像を共有しながら微調整。各所にOKをいただいた後は実際のサイズや構造が書き込まれた設計図を仕上げます。製作工場に設計図を渡すのは、だいたい番組収録の2週間〜1ヶ月前。限られた時間との戦いになります。

▲熊崎がデザインを担当した『Going!』のセット。Gマークオブジェを象徴とし、空間全体を横切る波型の構造はシューズの紐やメッシュの網目を想起する造形を躍動感をもたらす要素として組み込んでいる。“G O I N G”の文字を新たに図形化し、セット内の至る所に隠れたアイテムとして散りばめたデザインとなっています。

実際の建て込み(セットの設営)や撤収は大道具や電飾、小道具の担当者が担当しますが、私たちセットデザイナーも同席して想定通りに出来上がっているかどうかはもちろん、通路の幅が図面通り取れているかなど、安全面も含めて細かくチェックして調整しながら仕上げます。

  • セットデザイナーに求められる人物像やスキルは?

熊崎:セットデザインは番組の演出にも関わってくる部分であり、演出サイドの意向を汲み取って実現するクライアントワークでもあります。それはイベントやドラマにおけるセットデザインでも変わりません。ですが、そのなかで自分なりのオリジナリティを出すことが重要で、そのオリジナリティを他の人に認めさせるための説得力も必要です。

そのためにも、デザイナーは常に自分の意見を持って仕事に関わらなくてはいけません。その方法が絵や図面を描くことでもいいし、言葉で説明することでもいい。とにかく自分の意見を伝える力を鍛えることが求められます。

▲『千鳥かまいたちアワー』のセットは”メキシコの死者の祭り”がモチーフ。雰囲気のある装飾やグラフィックと深緑・真鍮の武骨な印象の配色空間を掛け合わせ、千鳥・かまいたち2組がイジり、楽しめるような飾りが満載の「遊び場」になっています。

震災の最中、深夜まで作業を続けた『ZIP!』のセットデザイン

ジャンルを問わず、様々な番組セットのデザインを担当してきた熊崎。なかでも思い出深い仕事が、朝の情報番組『ZIP!』の番組立ち上げを経験したことでした。

  • 『ZIP!』の立ち上げはどのような点が大変でしたか?

熊崎:『ZIP!』は日テレの朝の顔として30年以上親しまれてきた番組『ズームイン!!』シリーズの後継番組です。当時、私は入社7年目。朝の情報番組が変わることは、日本の朝が変わるくらい大きな出来事ですから身が引き締まる思いでした。

 番組の演出担当の方も同じく気合いが入っていたのですが、セットにも非常にこだわりを持っていて。「これまでテレビで観たことがことないセットを作りたい」というリクエストをいただき、通常の3倍以上の時間をかけてデザインを決めていきました。

 デザインの方向性が決まり、いよいよ図面を起こして製作工場に渡す段階になったときに、東日本大震災が起きたんです。局内がてんやわんやになっているなか、地震に揺られながら深夜まで図面を書いたのを覚えています。

▲熊崎がデザインを担当した2023年4月にリニューアルした『ZIP!』のセット。「番組起ち上げ時もデザインを担当しました。当時は震災直後で製作工場も電力・資材不足。色々なところから道具や資材をかき集めて、なんとか放送できる形まで持っていけました」と当時を振り返りました。
  • 震災の最中でやり遂げたことも大変ですが、「テレビで観たことがないセット」というのは大変難しいリクエストだと思います。どのように応えたんでしょうか?

熊崎:最初は番組ロゴも完成していない状態から始まり、1週間に1案のペースで自分の経験をフル活用して新しい案を出していました。それでもなかなか案が通らなかったのですが、ロゴのイメージが完成したことを手がかりに、スタッフのなかで「ロゴの世界観を基にした店舗内装のような空間にしよう」というイメージを共通認識として持てたんです。そこからブラッシュアップを重ねて、当時のデザインが生まれました。

 国民的な朝の情報番組の後継を立ち上げるのは非常にプレッシャーが大きかったですが、ゼロから完成まで手がけられることもあって非常に達成感がありましたね。

動画配信サービスの隆盛が挑戦的なデザインを可能にした

NetflixやPrime Videoといった動画配信サービスの登場に加えて、タレントや芸能人がYoutubeチャンネルを開設するのが当たり前になるなど、大きな変化のなかにある動画メディア業界。そのなかで、日テレアートの強みがより明瞭になったと熊崎は語ります。

  • 日テレアートでは地上波の番組のみならず、動画配信サービス番組やイベントのセットデザインも手掛けています。熊崎はどのように関わっていますか?

熊崎:直近だと日テレが制作し、Netflixで配信している『名アシスト有吉』のセットを担当しました。配信番組は地上波と違って誰でも見られる番組ではないため、企画に対する規制も緩やか。そのため、バブル期のテレビ番組のような大掛かりなセットを使ったバラエティ番組やゲーム番組のニーズが高まりつつあるように思います。

▲『名アシスト有吉』のセット。盤面のデザインやアナログな楽しさが魅力的な『ピンボール』のデザインがセットのコンセプト。番組のテーマとなる〝十人十色のMC企画や予測不能なバラエティ〟のドキドキワクワク感を表現。パズルピース型のモニターには企画テーマに沿ったビジュアル映像が映し出され、MC毎に様々な表現を可能にしています。

『名アシスト有吉』はまさにそういった番組のひとつで、芸人さんがローションまみれのリングで対決したり、巨大水槽に入って生活したりといった企画だったので、セットの製作だけでなく安全をどうやって確保するについても常に念頭に置いていました。

もちろん、安全面の確保は大前提ですので、デザイナーだけで判断できないところは大道具会社の設計の方や専門家と一緒に相談しながら作っていくこともあります。安全面を担保しながら大掛かりなセットを作れるのは、日テレアートが培ってきたノウハウのなかでもかなり強力だと思います。

  • 仕事の舞台が地上波に限られなくなったなか、日テレアートならではの強みは何だと思いますか?

熊崎:バラエティからドラマ、イベントまで幅広く対応できる提案力と、総合的な技術力だと思います。

通常、テレビの制作は番組ディレクターやプロデューサーなどの「演出」と、我々セットデザイナーや小道具、大道具などの「美術」、そして照明やカメラ・音声といった「技術」という3つのセクションに別れ、それぞれを専門とするグループ会社や別会社のスタッフと協力しながら番組を作っていくのが一般的です。

一方で、日テレアートには同じ社内に私のようなセットデザイナーもいれば、通常は技術のセクションに含まれる照明プランナーもいます。ですから、たとえば「セットのこの部分は電飾で間接光を作るので、全体の立体感は照明で演出していこう」など、細かな計画の段階からワンストップで提案・設計できるんです。

また、案件のコンセプトを明確に打ち出すためには、グラフィックデザインやテロップデザインのセクションが同じ社内にいることも強みです。社内ですり合わせておけばオンエアされた際に画面の中でセット・テロップ・ロゴの配色やテイストに統一感を出すことができますし、セット内や展示で使用するグラフィックも精度が高いものを提案することが可能になります。

▲『THE W 2022』のセットも担当。2017年の初回放送から大会の普及を目的とし毎年少しずつ変化を加え、5回大会以降『異種格闘技戦・女性芸人の祭典』を明確にビジュアル化するため、赤・ゴールドの配色をベースに華やか且つ荘厳な印象に変更。造形や装花を加えバージョンアップしました。

アートプロデューサーやセットデザイナーが撮影現場に同席することがとても多いです。そのため、現場設営の段取りやセットチェンジするタイミングについてなど、実際の現場の取り回しを理解したうえで図面を書けるデザイナーが揃っています。自分の職域にとどまらず、現場全体のことを考える力があるのは日テレアートならではだと思いますね。

やりがいは、視聴者の“楽しい”気持ちを生み出すこと

  • 地上波だけの仕事ではなく、幅広い分野での仕事ができるということは、これからセットデザイナーを目指す方にとってワクワクすることかもしれませんね。

▲”場末の遊園地”をテーマにした、番組初回から続く『月曜から夜ふかし』のセットも担当。2022年4月からの放送時間変更に伴い、アイコンとなる『くちびる型登場口』はそのままにより華やかにゴージャスにパワーアップしました。

熊崎:そうですね。安全性やコンプライアンスの徹底は、番組制作において大事なことです。一方で、日常からかけ離れた大掛かりなセットや思い切ったチャレンジがテレビの高揚感を作ってきたことも事実です。

地上波はテレビがあれば誰でも視聴できることもあって、皆が安心して観られる番組作りを目指してきました。その流れを踏まえつつ、視聴者が観たい番組を選ぶ配信番組はより挑戦的なこともできる。地上波では難しいとされてきたことが配信番組で少しずつ復活しつつあることは、私たち日テレアートのスキルやノウハウを活かせるチャンスが増えてきたんだと捉えています。

  • 最後に、様々な案件を担当してきた熊崎にとって、セットデザイナーの仕事の魅力を教えてください。

熊崎:ありがちですが、自分が作ったものを多くの人に見てもらえる仕事という点は、自分の力になっています。特に私は地方の出身なので、番組の最後に私の名前がクレジットで入っているのを観た両親や友達から「あの番組観たよー」と連絡が来るのは嬉しいです。

番組のセットは画面の中にしか存在しないものですが、テレビは現代の生活に欠かせないもの。その意味で、皆さんの生活に密着したものをデザインできているという実感は仕事に対するやる気や喜びに繋がっています。

▲熊崎がデザインを担当した『東京五輪』のセット。連鎖する杉材、エンブレムの藍色、トーチ、聖火台などの東京五輪を構成する要素をモチーフに、全体構造は円形に囲まれた競技場内の空気感を演出。連鎖する木材やパイプを規則性と動きのある組み方で構成することで、華やかなスポーツの祭典を表現しました。 

セットデザイナーは体力勝負ですし瞬発的な判断が求められる大変な面もありますが、クリエイティブの力で視聴者の“楽しい”気持ちを生み出せることがこの仕事のやりがいです。自分自身が仕事を楽しんでいないと視聴者にも楽しさが伝わらないと思うので、演出側の要望を汲みつつも自分ならではの発想を大切に、これからもデザインを提案したいと思います。


日テレアートではセットデザインはもちろん、グラフィック、CG、Web制作など総合的なクリエイティブ制作がご提案可能です。 お気軽にご相談ください

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