グラフィックデザイナーやCGデザイナーなど、デザイン職には様々な業種がありますが、テレビ番組に携わる美術制作会社ならではの職種がセットデザイナーです。その名のとおり、番組やイベントの舞台となるセットをデザインする仕事であり、日テレアートではバラエティ、スポーツ番組、ドラマなど様々なセットデザインを手掛けてきました。
2018年に新卒で入社した髙木彩も、そんなセットデザイナーのひとり。入社するまではファインアート(美術的価値を追求する芸術)の道で学び続け、デザインの経験はほとんどなかった髙木ですが、現在では様々な番組のセットデザインを担当するなど目覚ましい活躍を見せています。なぜセットデザイナーの道を志したのか、そしてファインアートを出自とする髙木ならではの強みに迫りました。
美術に興味を持ったのはいつからですか?
髙木:もともと小さい頃から絵を描くのが好きで、小学生の頃に美術教室に通うようになったのが本格的に美術の道を志したきっかけです。そこは子どもから大人まで通っており、年代や目的に応じて様々な教室に分かれていました。その中に美大を受験するための教室もあり、その存在を知った私は小学生ながら「将来は美大に進学しよう!」と自然に思うようになっていました。
それから中学・高校では部活に熱中しながらも美術教室に通い続け、無事に美大に進学。ファインアート系かデザイン系、どの道で学んでいこうか迷ったのですが、ファインアートの道に進むことに決めて日本画を専攻していました。
そこからテレビの世界でセットデザインをしようと思った理由を教えてください。
髙木:就活の時期に自分のやりたいことを考えた結果、地元に住んでいる家族に自分が手がけた仕事を見てもらえる職業がいいなと思い、テレビ業界に興味を持ち始めたんです。大学在学中にアルバイトで写真撮影をしていた経験から、最初はカメラマンに興味を持ったのですが、インターンでお話を聞いたりするなかでやっぱり自分が学んできた美術を強みとして活かせるテレビ美術の道を目指そうと決め、現在に至ります。
自分が携わった番組のスタッフロールを見た父が真っ先に私の名前を見つけて連絡をくれたときは「見てくれているんだ」と分かって嬉しかったですね。
入社するまでデザインの経験はほとんどなかった髙木。最初は不安もあったと言いますが、幼少期から美術というジャンルにたくさん触れてきた彼女だからこその強みも発揮し、仕事に取り組んでいます。
これまで学んできた美術とは異なり、セットデザインの仕事ではクライアントの要望を汲みつつデザインを作る力が必要かと思います。不安などはありませんでしたか?
髙木:自分のデザイン力については不安がありました。美大の必修科目でPhotoshopやIllustratorの使い方を軽く学んだ程度で、本格的なデザインやデジタルでの制作は入社してからが初めてだったんです。なのでクライアントが望むものを作ることができるのか、自分の感覚のままやっていけるのだろうかと、最初は心配な気持ちもありました。ですが入社後にはソフトの使い方やデザインの考え方など会社の研修があり、その後も先輩方に教えていただきながら仕事ができたので、ぐんぐん成長していくことができたと思います。
日本画などの平面作品の制作と番組セットのような空間作りは異なるジャンルのように思いますが、空間デザインにおいて過去の学びが役立ったことはありますか?
髙木:テレビのセットの場合、空間作りといっても視聴者が見るときはテレビ画面の中に平面として収まっているので、テレビ画面に絵を描くような気持ちでいればいいと思っています。デザインを考えるとき、まずはテレビと同じ16対9の比率で枠を書いて、そのなかのどの位置に人が居て、どういう背景があったら構図として美しいだろうかと考えながらセットのイメージを膨らませます。それをもとに背景パネルの建て方や装飾の位置などを考えていくのですが、これは絵画を専門的に学んできたからこそできていることかもしれません。
他にもセットのなかで飾ってある絵や壁紙代わりに貼るシートなどのグラフィックデータを自分で作ったりすることもありますし、セットの中の細かな装飾まで作れるのは私の得意分野だと思っています。以前、セットに立体物を置きたいけど、コストの関係で実際に作るのは難しい場面があったんです。そのときは視聴者がテレビ画面を通して見ると立体的に見えるよう、質感の出し方や影、光を工夫して描いた騙し絵のような物を制作して設置しました。絵画で培った知識が役立ったなと感じましたね。
髙木はテレビ番組だけでなく、イベントで使用するセットのデザインにも積極的に取り組んでいます。テレビ番組との違いや、思い入れのある仕事について聞きました。
入社当初はイベント関連の事業部に配属され、イベントのセットデザインも経験してきましたね。テレビ番組のセットデザインとどのような違いがありますか?
高木:テレビ番組のセットは裏側に回るとハリボテですが、イベントのセットの場合は実際にその空間にたくさんの来場者が出入りするため、セットのあらゆる角度が人の目に触れたり、間近で現物を見られたりすることとなります。そのため、イベントのセットはテレビのセットよりもより広い範囲を、より細かいところまで世界観を作り込む必要があるのが大きな違いだと考えています。イベントに足を運んでくださるのは、普段番組に出ている出演者さんではなく、それを画面越しに見ている側の人です。その方々に非日常感を味わっていただくためのこだわりや、心置きなく楽しんでもらうための安全対策など、様々な面で気を抜けません。ですが、来場者がセットを見て「すごい!」と感動してくれている様子を直で見られるのは、イベントならではの魅力だと思います。
今までに手掛けてきたなかで思い入れのある仕事は?
髙木:全国の高校生が対象のイベント『ポケモンユナイト甲子園』は、地区予選をオンラインにて開催し、そこから勝ち上がった4チームによる全国大会を日本テレビのスタジオにセットを組んで行いました。
髙木:浅い年次ながらメインデザイナーとしてこの規模のセットを手掛けられたこと、自分でも満足のいく作品を出せたことで、このセットは今の自分の代表作として誇りに思っています。
また、この作品をきっかけに「東京ゲームショウ」のブースデザインのご依頼をいただくことができました。初めての指名案件となり非常に嬉しかっただけでなく、ゲームやeスポーツは私自身も好きなジャンルですのでそこに関われたのは非常に光栄でした。
セットをデザインする際に重視していることは?
髙木:「クライアントが求めるものは何か」を掘り下げることです。クライアントから具体的なイメージを提示される場合もあれば、ざっくりとした抽象的なリクエストをいただく場合もあって。後者の場合は例えば「明るい」というワードが出たとしても、ポップでカラフルな感じなのか、晴れた日のような爽やかな感じなのかなど要望を聞き出しながら、先方の頭の中にある抽象的なイメージを具体化するように努めています。そのうえで「そんな遊び心もあるんだ」とクライアントに思っていただける要素をプラスできたらベストだと思います。
セットに盛り込んだ“遊び心”には、具体的にどんなものがありますか?
髙木:例えば山口放送の情報番組『熱血テレビ』は私が3年目のときに社内コンペで通った思い入れがある案件で「明るく、楽しく、親しみやすい雰囲気、番組ロゴともリンクさせたい」という要望を受けてデザインをしました。そのなかに山口の名所である錦帯橋をイメージしたデザインを、パッと見では分からないぐらいさり気なく盛り込んだんです。プレゼンの際に「実はここは錦帯橋で……」と説明すると「言われてみれば!」と先方にも気に入っていただけました。地元の人間ではないからこそ、その地方の特徴や良さを客観的にデザインに落とし込める面もあるかもしれませんね。
髙木:系列局の番組セットの案件を手掛けさせてもらえるのは、キー局の美術制作会社である弊社だからこそ。いつか地元の静岡で放送されている番組のセットも担当できればいいなと思っています。
最後に、これから日テレアートでどんな仕事をしたいか教えてください。
髙木:eスポーツの認知や市場の拡大とともに『ポケモンユナイト甲子園』のように、業界全体的にeスポーツ関連の案件が増えています。今後もeスポーツ関連の案件には積極的に手を挙げていきたいです。あと、最近はバーチャルでの交流やイベントなどにも興味があります。日テレアートでもCGデザイナーがバーチャルセットのデザインをおこなっていますが、私もその分野の技術を勉強、仕事として手掛けてみたいなと思っています。
それから、私は学生時代よりフライングディスクというスポーツに関わっています。自身がプレーすることはもちろん、日本代表チームの帯同スタッフになったり、大会やイベント運営にも携わってきました。実は、フライングディスクはオリンピック競技入りを目指しているスポーツ。いつか正式に種目になったときは、オリンピック中継番組の担当になり、自分がデザインしたセットで選手がインタビューを受けるのを見ることがもうひとつの夢です。
日テレアートではセットデザインはもちろん、グラフィック、CG、Web制作など総合的なクリエイティブ制作がご提案可能です。 お気軽にご相談ください。