プロたちの成果
テレビ美術の知見を活かした客室デザインとは? 東京ドームホテル 「読売ジャイアンツコラボルーム」制作の裏側
テレビ美術の知見を活かした客室デザインとは? 東京ドームホテル 「読売ジャイアンツコラボルーム」制作の裏側

日本テレビのグループ会社として、日本テレビアート(以下、日テレアート)ではテレビ番組や映画などで使用する美術セットのデザインや照明ディレクション、また印刷物等の企画・デザイン等を行っています。

そんな中、テレビ関連の業務で培った技術やノウハウを積極的に外部企業へと提供するべく、

日テレアートでは2020年にビジネスプロデュース室が発足。現在は空間デザインやWeb、印刷物、またイベントに至るまで、様々な企業のデザインをプロデュースしています。

このたび日テレアートでは、東京ドームホテルにおける読売ジャイアンツとのコラボルームの企画から内装デザイン、施工までを担当しました。

テレビ美術のノウハウを活かしたというホテルの客室は、どう生まれたのか―― 総合プロデュースを務めた中原、総合窓口を担当した山下、客室デザインを担当した大住、高井、そして建築領域を担当した米長を交え、本プロジェクトを振り返りました。

宿泊客に喜ばれるだけでなく、集客力の高い客室を目指して生まれた「読売ジャイアンツ」コラボルームとは

―― まずは、東京ドームホテルにおける読売ジャイアンツコラボルームの制作に至った背景を教えてください。

山下:ビジネスプロデュース室では、外部のクライアントワークを担当しておりまして、今回の案件では私が営業およびクライアントの窓口を担当させていただきました。

そして、東京ドームホテルとの案件が実現した経緯としては、

昨年(2022年)4月頃から、商品企画・開発を行っている日テレ7という日テレグループの企業と、空間デザインを得意とする日本テレビアートがタッグを組み、”ホテル”という新たな分野の進出へ向けて検討を進めました。その後、日テレ7とお付き合いがあり、読売ジャイアンツのライセンスを管理されている読売新聞東京本社に本企画をご提案。最終的に、東京ドームホテルのご意向で3社協業の枠組みとなりました。

ビジネスプロデュース室 山下 祈 

―― 今回のコラボルームの方向性を決めるにあたり、どのような点を意識しましたか?

中原:まずホテルの客室ということで、宿泊されるお客様に喜んでいただけるものにしなければなりません。一方で、東京ドームホテルとしては宿泊客に喜んでいただくことはもちろん、コラボルームとしての宣伝効果、すなわち商品としてコラボルームをいかに販売していくかということもミッションになります。

そのため、宿泊客がSNSでシェアしたり、メディア取材による宣伝効果なども狙ったり、客室をデザインしていくということが特に意識したポイントでした。

そこでまずは、読売ジャイアンツのファンが喜ぶものはどういったものかという視点でアイデア出しを行っていきました。リサーチのために、実際に東京ドーム内にある選手のロッカールームを見学させてもらったりもさせていただきました。

米長:そうしたロッカールームなどの裏側は、見たくても見られないですよね。だからこそ、ファンの方が普段見ることができないロッカールームを客室で体験できればテンションが上がるだろうなと思いましたし、実際に私たちも見学させていただいてテンションが上がり、たくさん写真を撮っていました(笑)。

またヒーローインタビューをするときに使われるインタビューボードやジャビット人形があると思うのですが、そうしたものも客室にあれば、ファンは嬉しいだろうと。そうしたアイデアを詰め込んで生まれたのが、『THE LEGENDS ROOM』と『Go Giants! ROOM』という2つのコンセプトの客室でした。

『THE LEGENDS ROOM』に設置された選手ロッカー風の棚およびヒーローインタビュースペース

「テレビ美術では、画面越しにどう見えるかを考える」テレビのセットデザインで培ったノウハウが詰め込まれた客室に

―― あらためて、『THE LEGENDS ROOM』と『Go Giants! ROOM』がそれぞれどういったコンセプトで、どのように内装デザインを進めていったのか、教えて下さい。

大住:私は『THE LEGENDS ROOM』のデザインを担当させていただきました。 “THE LEGENDS ROOM” という名前の通り、 “読売ジャイアンツの歴史や伝統を感じることができる客室” というコンセプトのもと、デザインを決めていきました。

そして他のホテルのコラボルームなどもリサーチしつつ、ロッカーや往年の選手の写真など、読売ジャイアンツのどういったものを使用できるのか確認をしていきながら、デザインに落とし込んでいきました。

その上で、 “テレビ番組のセットデザインをやっている私たちだからこそできるデザイン” も考えています。たとえば私たちは普段からテレビの画面越しにどう見えるかを考えてデザインをしているため、今回宿泊客がSNSでシェアをしたくなるような、写真映えする空間を意識してデザインしていきました。

ホテルの客室としては読売ジャイアンツ色が強すぎるくらいの印象があるかもしれませんが、非常階段の経路図のデザインもこだわるなど、コアなファンの心に刺さるポイントを詰め込んだ、魅力たっぷりの一室になったなと思っています。

ちなみに客室の椅子としては珍しいゲーミングチェアを設置していますが、実は原監督がベンチ監督席で使っている椅子。そうした知る人ぞ知るポイントが随所に詰め込まれています。

THE LEGENDS ROOM 内装 
Go Giants! ROOM 内装

高井:私は『Go Giants! ROOM』のデザインを担当しました。実は私自身も学生時代に女子野球チームに所属していたため、そのときの経験を活かし、野球ファンの女の子たちがどんな部屋を求めているのかと想像を膨らませてデザインを考えていきました。

そして特に意識したのが、ただカワイイ空間にするだけではなく、ファンが部屋で何をしたいかということでした。そこで推しの選手のグッズを飾って楽しむことができる “祭壇” を設置。また、壁には真鍮の部材をあしらったり、ロゴ部分には間接光としてLEDを仕込んだりと、華美な装飾をバランスよくまとめました。

やはりテレビ美術の思考だと、画面の余白を埋めたくなるんですね(笑)。その結果、いろいろな場所が写真スポットとなるような、どこでも楽しめる空間に仕上がっています。

 

美術デザイン部 高井 美貴 

―― こうしたテレビ美術のノウハウから生まれる施工というのは、通常の施工とどういった違いがあるのでしょうか?

米長:テレビ美術での装飾は、一般的に使わない素材を使うことが多く、また多くは特注で依頼して制作することが当たり前です。そのため、たとえば客室の壁のクロスに関しても、カタログから選んで決めるというプロセスが一般的ですが、私たちはオリジナルのデザインをプリントするんですね。

実際に今回であれば、選手の写真をプリントしたものを壁紙として使用していますが、こうした特注クロスを制作できる業者は限られていたりもします。日々番組ごとにオンリーワンの装飾を制作しているからこそ生まれるアイデア、そしてそのアイデアを実現する施工業者等とのネットワークがあるというのは、私たちの強みだと感じています。

ビジネスプロデュース室 米長 博 

「できない」ではなく、代替案を出すこと。見栄えだけでなく、演出上の問題解決もテレビ美術の仕事である

―― 客室の空間デザインは、テレビ番組のセットデザインとどのような違いがあるものなのでしょうか?

大住:やはりテレビのセットはあくまでもセット、つまり仮設なんですよね。そのため、極端に言ってしまえば、裏側は倒れないようになっていればよくて、テレビに映る表の見栄えだけを考えればよかったりします。

また、番組によってはセットを1日しか使わないということもあるので、耐久性を意識することもさほどありません。

一方でホテルの客室というのは、宿泊客の生活動線を考慮しなければなりませんし、長く客室として使われるものであるため、耐久性も求められます。そうした見栄え以外もケアをするというのがテレビ美術との違いでした。

高井:今回デザインの構想を考えていく中で、いろいろとやりたいことが出てきてしまったのですが、建築の構造上、また生活空間だからこその制限があってできないということもたくさんありました

たとえばバスルームもこだわった空間にしたいと思っていたのですが、結露や防水対策なども考慮しなくてはなりません。そのため、壁のタイルを取り替えたいと思っても実際にはただシートを貼るしかできないなどの制限があり、メンバーとひたすらアイデアを出し合い続けながら、最適解を見つけていきました。

Go Giants! ROOM バスルーム 
Go Giants! ROOM ウィンドウ 

米長:どちらの客室からも東京ドームが見えるようになっているのですが、当初は窓ガラスに装飾シートを張って、写真の背景にしようというアイデアが出ました。ところがホテルを建設した会社から、使っているガラスが特殊な物なのでシートを張ってしまうと太陽熱で割れる可能性があるため、貼ることはNGと言われてしまいました。

そこで最終的に生まれたのが、フックでフレームを吊るすというアイデアでした。もちろんフックを設置するために窓枠に穴を開けても大丈夫なのかの確認をとり、安全面も考慮した上でのアイデアでしたが、一般的な施工会社であればホテルの客室の窓枠に穴を開けるなんて、なかなか生まれないアイデアだと思います。

こうした臨機応変な対応というのも、テレビ美術を経験してきたからこそだと感じています。

大住:テレビ美術の現場では、普段から「どうすればいいか」と代替案を考え続けることが求められます。たとえばセットに大きな装置を入れたいだとか、登場でこういった演出をしたいだとか、いろいろな演出の要望に私たちは応えなくてはなりません。

特にロケ先では常に何かしらの問題が起きるわけですが、私たちは「できない」と言わず、常に代替案を出していき、演出家や番組プロデューサーが考える演出を実現していくことが求められるわけです。

「ドッキリ企画で、ここの壁から演者を登場させたい」みたいな日常生活ではありえない演出を実現する方法を私たちは日々考えているので、実際は見栄えを考える仕事というだけでなく、どうすればいいかと問題解決するのがテレビ美術の仕事。

そうした問題解決思考だからこそ、今回のホテルの客室デザインにおいても、できないと諦めるのではなく、ではどうすれば実現できるかを考え続けていきました。

美術デザイン部 大住 啓介

空間だけでなく、WebやCG、印刷物など様々なデザインができることが日テレアートの強みである

―― 客室完成後、反響としてはいかがですか?

山下:2023年3月末より利用スタートいたしまして、「THE LEGENDS ROOM」の試合日の予約状況は、9月末までほぼ満室(6月5日時点)と伺っています。そして宿泊客が増え、SNS等での発信が増えていけば、試合日以外の予約率も高まっていくだろうと予想しています。

ただ、今後シーズンオフの時期や平日にいかに集客するかが課題であるため、内装のマイナーアップデートを提案していき、より客室としての雰囲気を高めていければと考えています。

 

―― 最後に、お一人ずつ今回のプロジェクトの感想および今後の展望をお聞かせください。 

中原:ホテル客室の空間プロデュースを携わらせてもらいましたが、私たちとしても初めてのことも多く、どうやって実現するのか、何が必要なのかと常にトライ&エラーを繰り返しながら進めていった案件でした。 

そして「やったことがないからできない」ではなく、どうすればできるかと常に代替案を考え続けてきた日テレアートだからこそ、今回も満足のいく空間をプロデュースできたのだと考えています。 

今回培ったノウハウをホテルに限らず、様々な企業にご提案させていただき、空間プロデュースの可能性を追求していきたいと思っています。 

ビジネスプロデュース室 中原 晃一 

山下:テレビ美術と違い、ホテルの客室という生活動線や安全面なども考慮しなければならず、大変だったこともありましたが、実際に完成した客室を見てとても嬉しかったですし、素敵な空間に仕上がったなと感じました。 

また、実は今回客室デザインだけでなく、レストランの装飾やポスター、またグッズ制作のご提案などもさせていただいており、空間デザイン以外にもWebCG、印刷物など多彩なデザインができることが私たちの強みでもあります。 

今回の東京ドームホテルと読売ジャイアンツのコラボルームの実績を通じて、様々なホテルにご提案してければと思っていますし、日テレアートはテレビ美術をやっているだけの会社ではないというのを多くの方に知っていただけたら嬉しいなと思います。 

米長:私個人としてもワクワクするプロジェクトで、携われて本当に嬉しく思います。また、実際に施工してくれた会社の現場監督の方とも「今回の2部屋がより人気になっていき、ゆくゆくはフロアすべてをコンセプトルームにしたいね」と話していましたが、関わったすべての方の気持ちが上がるプロジェクトだったと感じています。 

今後は全国のプロ野球12球団のコラボルーム受注制覇を目標に、更に様々な施設、建物の価値向上に携わっていければと考えています。 

大住:私は普段はテレビ美術をやっているので、こうしたホテルのデザインはとても楽しく、非常に良い経験となりました。 

今後も様々なクライアントワークを通じて、私自身、そして日テレアート全体でレベルアップしていき、お客様に喜んでいただくという体験を増やしていければ嬉しいです。 

高井:普段のテレビ美術の仕事は大体1ヶ月、長くても3ヶ月といった期間で進めていきますが、今回は半年近いプロジェクトで、長距離走のような新鮮な感覚を得られた案件でした。 

そしてテレビのセットと違って、壊されずに使われ続けるものの制作に携われたのは、とても嬉しかったですね。実際に完成したホテルを内覧させていただいたときに、ホテルのみなさまも嬉しそうにお話されていたのがとても印象的でした。今後もこうした空間デザインの案件に携わっていければと思っています。

Go Giants! ROOMにて集合写真 ※2023年3月撮影

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